Beranda / ミステリー / 水鏡の星詠 / 朝陽の中の誓い ①

Share

朝陽の中の誓い ①

Penulis: 秋月 友希
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-28 04:47:05

 リノアは村の広場に集まった人々の中、静かに立ち尽くしていた。朝霧が地面を覆い、湿った土の匂いが鼻腔を満たす。足元の草は冷たく、粗末な靴に水滴が染み込んで彼女の足を冷やしていた。

 空はまだ薄暗く、朝陽が霧の向こうでぼんやりと輪郭を描いている。

 広場の中央には、儀式のための祭壇が設けられていた。太いオークの枝が円形に組まれ、その内側に平たい石が積み上げられた簡素なものだ。だが、その素朴さの中にも、長い年月を経た重みが感じられた。

 祭壇の頂上には、先祖代々受け継がれてきた青銅の器が置かれている。器は古びて緑青が浮いており、表面には龍が空を舞う姿や星々が連なる模様など、細かな彫刻が施されている。

 リノアはその器を見つめ、シオンの不在に心を痛めた。この儀式を行うのは、いつもシオンだった。シオンが村人たちの前で自然との絆を呼び起こす姿が思い起こされる。

 リノアは深く息を仕込み、祭壇に目を移した。

 器の縁から微かな水滴が、ぽつりぽつりと落ち、祭壇の冷たい石を静かに濡らしている。その音が張り詰めた空気の中に小さな波紋を生むようだった。

 祭壇の上に置かれた器には澄み切った水が並々と張られ、朝陽の最後の光がその表面で踊っている。光の破片が水面を駆け巡り、まるで器自体が生きているようだ。

 水面は鏡のように澄み渡り、霧の白と空の青を映しながら、どこか別の世界と繋がっているかのような気配を漂わせている。その奥底で何かが眠り、あるいは目を覚まそうとしている――そんな錯覚を覚えた。

 風が頬をかすめ、器の水面にかすかな細波を生む。その小さな動き一つ一つが過去の声となり、私に何かを語りかけている。この水面の鼓動を感じ取らなければならない。

 シオンほどではないにしても、私にもできることがあるはずだ。リノアはそう信じていた。シオンが命をかけて大切にしたこの村と自然を守りたい。その純粋な思いだけが、今の彼女を支えている。

 村人たちのざわめきが耳に届く。年寄りたちの呟き、囁き合う声……、村人たちの視線が私に注がれている。

 村人たちは、本当にシオンの代わりを務めることができるのかと思いながら、私を見ているのだ。重い視線が肩にのしかかる。

 しかし、その喧騒は、どこか遠くで鳴っているように感じられた。まるで現実から切り離され、リノアだけが異なる次元に取り残されたかのように。

「守れ、
Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 水鏡の星詠   ひと気なき傾斜の先に ④

     ヴィクターが身を潜める場所を突き止めたアリシアとセラは、お互いに顔を見合わせた。 言葉は交わされない。だが、その目の奥に浮かぶ光は次なる行動に移す意思を宿している。 埃の上に残された足跡。 周囲の様子を照らし合わせても、今この店の中にヴィクターが身を潜めているとは考えにくい。 おそらく、出かけている。「この後、どうするの? アリシア」 セラが小声でささやく。 足跡から、ここに誰かが出入りしているのは間違いない。 大きさも形も似通っており、店の前を何度も往復した痕跡が残っている。 歩幅には揺れがあり、時折、視線をずらすように動いた形跡も見受けられる。周辺に人がいないかを確かめてから入っていたのだろう。 今は誰の姿もない。しかし、ここで待つわけには……。見つかってしまえば、それだけで終わってしまう。 この地での調査も、これまで積み上げてきた計画も── 一つの綻びで、すべてが崩壊する。 沈黙の中、アリシアは小さく息を吐き、遠くを見つめた。 その眼差しは、この先にある変化の兆しを探し求めている。 ヴィクターの動向、ラヴィナの所在、そして揺らぎ始めたエクレシアの情勢── それらは互いに絡まりながら、少しずつ輪郭を浮かび上がらせている。「ひとまず、ここから離れよう」 そう言って、アリシアは埃の漂う空気を振り払うように歩みを進めた。「ヴィクターが単独で動いているなら、こっちから接触する手もあるけど、そうとは限らないからね。深入りするには、慎重すぎるくらいじゃないと。もし他に仲間がいたら、あっという間に取り囲まれてしまう」 セラは周囲を見渡しながら頷いた。 埃にまみれた痕跡と、足跡の交錯── それらは過去の記録であり、同時に未来への警告でもある。 二人は人気のない川沿いの路地を抜け、来た道を戻っていった。 足音は小さく、周囲の建物に吸われるように沈んでいく。 セラは無言のまま歩きながら、過去の記憶に指を伸ばしていた。 かつて、友人を守るために頼った情報屋── だがその男は、解決後に情報を他者へ売り渡し、信頼を踏みにじった。不利益を受けた友人が、その後、どうなったか──その痛みは、今も胸の奥に沈んでいる。 だからこそ、情報屋を全面的に信用することはできない。 あらゆる可能性を想定して動かなければ……「あの店が潜伏場所とは

  • 水鏡の星詠   密やかなる命の痕跡 ⑥

     リノアは土に刻まれた足跡を一つ一つ確かめながら、深い森の中を進んでいった。 枝葉が低く垂れ、身体を屈めなければ通れない細い道。その暗がりにも親子と見られる足跡が残されていた。 土を抉るように刻まれた足跡──これはゆったり歩いた足取りではない。何かに急かされるような、不穏な足取り。 リノアの視線が、ふと枝葉の隙間から差し込む光に引き寄せられた。 霧の奥で何かがほのかに煌めいている。 リノアは歩みを止めて、耳を澄ました。 水音が遠くでささやいている。 霧に滲むその響きは、地の奥を流れる記憶のように穏やかで儚い。 これは川の流れではない。もっと細くて優しい、柔らかな響きだ。木々の根を撫でるような優しい水の声── 近づくに連れて、リノアは煌めきが泉の水面に光が落ちて生まれたものだと気づいた。 水が揺れながら枝葉の間からこぼれた光を受け止めている。その淡い煌めきは森が呼吸しているかのように見える。 リノアとエレナは泉の縁に立ち、揺らめく反射を見つめた。 ひと息ついた空気の中で、エレナがそっと口を開く。「フェルミナ・アークは許可さえ取ることができれば入島できるみたいだけど、本来は誰も入れない禁足地のはず」 泉の穏やかさとは裏腹に、周囲の森はその存在を拒むような沈黙に包まれている。「森林保護活動をしている人たちなのかな」 リノアは泉の水面に目を落としながら言葉を紡いだ。 それならば人がいたとしても不思議ではない。「その可能性はあるけど、子どもがいたから違うんじゃないかな。こんな危険なところに連れてくるとは思えないし」 エレナの言葉をリノアは胸の奥で反芻した。 霧に包まれた禁足地──そこに子どもがいたという事実が世界の辻褄を音もなく崩していく。 ──彼らは一体、何者なのだろう。 ラヴィナの屋敷に住んでいる人たちだとしても、この場所に子どもが姿を現すのは、やはり不自然だ。 周囲には獣の気配が立ち込めている。 地を這う微かな音、小枝を踏みしめる乾いた響き── 木々の隙間から覗く瞳が、こちらをじっと監視しているようにも感じられる。 空を見上げれば、頭上を旋回する鳥の姿。フェルミナ・アークに上陸する前に襲い掛かってきた野鳥だろうか。 この地では、一瞬でも気を抜けば命を落とす危険さえある。 この環境を前にして、子どもを連れてくること

  • 水鏡の星詠   密やかなる命の痕跡 ⑤

    「私にも、あの影が何だったのか、よく分からないの」 前を歩くエレナが呟くように言った。 リノアの視線がエレナの背に吸い寄せられる。「ただ……見えたの。霧の向こうに。小さな背中が……ひとつだけ」 その言葉には見えたことを受け止めきれない戸惑いが滲んでいる。 何かを見てしまったことよりも、それが本当に存在していたという事実が、エレナの声を揺らしているのだろう。「それって、子どもってこと?」 リノアが問うと、エレナの肩がわずかに揺れた。「たぶん……」 息を呑むほどの静寂の中、風が遠くで渦を巻く音だけが響いている。 リノアは何かを言いかけたが、その言葉を飲み込んだ。視線だけが霧の奥に彷徨う。 エレナは立ち止まることなく、その小さな背中を追うように霧の奥を進んで行った。 霧が密度を増し、エレナの輪郭を少しずつ飲み込んでいく。エレナは足を止める様子はない。 リノアの目には、エレナが何か決定的に変わったようには映らなかった。 弓を射たときのエレナは、いつも通りの冷静さと判断力に満ちていた。 振る舞いも、雰囲気も変わらず、迷いのない手付き── 幻想に囚われていたとは到底思えない。 それでも、エレナの瞳は何かを捉えた。 このような場所に子どもがいるとは思えないのに…… 今、エレナは、その存在を自分の足で追おうとしている。 この霧の先にあるものが、幻なのか、真実なのか──エレナ自身にも分かっていないのではないか。「エレナ、待って」 リノアの言葉にエレナがようやく振り向いた。身じろぎひとつせず、肩をゆっくりと動かす。「この森の先に何かがあるような気がするの」 そう言って、エレナは再び森の奥へと目を向けた。その目には答えを探す意志が宿っている。「何かって、どういうこと?」 リノアが問いかけた。しかしエレナはすぐには答えず、霧が揺れる森の奥に視線を注ぎ続けた。「影から逃れた後、あの子を見つけて思わず追いかけてしまったの。背中しか見えなかったけど、あれは間違いなく人だった」 それすらも、影が見せた幻想だったということはないのだろうか。それとも本当に……「あと少しで手が届きそうだった。だけど突然、霧の奥から影が現れて……」 エレナは記憶の断片を手繰り寄せるように言葉を継いだ。「ほんの一瞬だけ、影の中に誰かが立っているのが見えた。大人だ

  • 水鏡の星詠   ひと気なき傾斜の先に ③

     二人は看板の擦れた店を目で探しながら、さらに奥へと歩を進めていった。 アリシアは足を止めることなく、地図に目を走らせる。「この辺りにあるはずよ」 アリシアは周囲に耳を澄ませながら抑え気味に言った。 セラとアリシアは歩調を少し落とし、周囲に目を光らせる。 壁沿いに並ぶ建物は隙間が広く、視界を遮るものが少ない。 上からは完全な死角となっているこの道も、下に目を向ければ意外なほど見通しが良い。 音も光も乏しい空間──その分、遠くで何かが動けばすぐに気づける構造だ。 二人は、怪しい人影がないことを確認しながら、慎重に歩を進めた。扉一つ、窓一つ、その奥に潜む気配に意識を尖らせる。 しばらく歩いていると、かすれた文字が刻まれた看板が、石壁に半ば埋もれるように現れた。 そこに記されている店名は『スクーラ』 アリシアは地図に目を走らせ、店名が正しいことを確認すると、無言のままセラに目を向けて頷いた。 目的の店に辿り着いたことを告げるには、それだけで十分だった。 かつて商いをしていた面影だけを残す古びた扉。 看板は風雨で掠れ、今となっては、この店が何を扱っていたのかも、よく分からない。その外観からは、誰も今も使われているなどとは思いもしないだろう。「どうやら、ここのようね。誰にも知られていないわけだわ」 アリシアは声を抑えながら、店の前で視線を細めた。 この場所なら、物の受け渡しも密談も、人目を避けて行うことができる。これ以上ない環境だ。 この場所は、人目から隔たるという意味では完成された環境が整っている。 建物だけではなく、空間全体に長い年月が蓄積されたような沈黙が漂い、壁は煤けていて、長年の風雨に晒されたせいか表面がざらついている。 石畳は微かな傾斜と共に、所々に凹凸が刻まれており、歩くたび足元に不規則な感触が伝わってきた。 夜ともなれば、川沿いの通りを照らすのは、高所に設けられた数少ない灯りだけになるのではないか。ざっと見る限り、近くに街灯はない。川沿いの小路を照らすには心許なく、歩くことを躊躇させられそうだ。 まるで地図からも心象からも切り離された別世界。セラが足を踏み入れたというのも頷ける。このような場所に来たいと思うわけがない。「誰かが、潜んでいそうね」 アリシアが隣にいるセラにささやいた。 周囲に人の気配はない。 

  • 水鏡の星詠   ひと気なき傾斜の先に ②

     アリシアは水路沿いの傾斜に沿って、店のあるはずの一角へと歩を進めた。 足元には、かつて水が流れていた痕跡が残るだけ。乾いた石畳には苔すら生えず、音のない空間が広がっている。 アリシアとセラは言葉を交わすことなく、乾いた水路を進んだ。「あれっ? 水の音?」 セラが意外そうな表情をして、ほんの少し首を傾けた。 遠くの方から水の音が聴こえる。 水と石の微かな呼吸──さざめく水の流れる音が乾いた石畳に反響している。心なしか、空気に湿り気を帯びているように感じる。 アリシアとセラは歩票を落として歩いて行った。 音が近づくにつれ、目の前に現れたのは、頭上で弧を描くアーチ状の石造りの橋。 二人が歩いていた乾いた水路が川に合流している。もう、この付近には水がないと思っていただけに意外な光景だ。 一部分のみ水が枯れている…… 通常,水の流れが変わらない限りは局所的な乾きなんて起こらない。 水源が何らかの形で脅かされているか、何者かが意図的に流れを遮断でもしたかのどちらかではないか。 アリシアは頭上に目を向けた。 地表には店舗が立ち並び、幾人かの人が歩いている。 上の世界と下の世界──その二つの空間は同じ場所にありながら、まるで異なる時間の層に属しているかのようだ。 今、アリシアたちがいる地下水路には人の気配はない。湿った空気と共に息を潜めた気配が辺りを満たしている。 日常のざわめきと人の気配、そして色と匂い。真上にあるはずなのに、その世界は遠く、遮断されているように感じられる。 二人は石造りの橋を潜り抜けて、川沿いの細い道を歩いて行った。 この道を私たちが歩いていることを地表の人たちは気づかないだろう。この道は地表からは死角となっている。上を歩く人々には、この道の存在すら意識されない。そのような造りになっている。「本当に……グレタってエクレシアへ向かったのかな」 セラが呟くように言った。「どうだろうね。少し怪しかったから、話半分に聞いておいた方が良いかも」 少しの沈黙のあと、アリシアは地図を見つめながら口を開いた。「ねえ、セラ。あの情報屋、どうやって情報を仕入れているの?」 アリシアの問いかけに、セラは視線を外して、少し口元を歪めた。「あいつ、お金で情報を買ってるの。何人か信頼できる人がいるみたいで。だけど口外してはいけない情報

  • 水鏡の星詠   密やかなる命の痕跡 ④

     リノアは肩で細く息をついた。 胸の奥に残る震えが、まだ完全には収まっていない。それでも隣に立つエレナに顔を向けて、絞るような声で問いかけた。「どうやって、倒したの?」 エレナは少し考え込んだ後、矢筒に手を添えたまま口を開いた。「……正確には、逃げただけ。まだ倒したとは言えないわ。あの見えていた姿は、ほんの表層。奥に潜んでいる本体は別にある」 エレナは目を細めて、霧が消えた先を見つめたまま答えた。「矢にルミナスの祓石を仕込んでおいたの。霧に近い性質だったから、効くと思って」 そう言って、エレナは矢筒に残る矢にそっと指先で触れた。 矢尻に埋め込まれた銀の鉱石──その表面には細かい模様が刻まれている。これはルシアンを探していた時に、街で手に入れた鉱石のひとつだ。「この鉱石は霧を払う力がある。だから、それに賭けてみたのよ。実体がないから普通の矢で射っても無駄だと思ってね」 リノアは頷いたものの、心の奥には言葉にならない違和感が残っていた。 あの場面──空気が歪み、影が迫る中、エレナは一度も恐怖に囚われなかった。 茂みの中で息を潜め、狙いを定め、迷いなく矢を放つ。その一連の動きに、ためらいは微塵もなかった。 恐怖心はなかったのだろうか。シオンの研究所で対峙した獣たちのような露骨な敵意こそ感じなかったが、それでも、こちらの行動一つで命を奪われていた可能性は十分にあった。あの影には、そう思わせるものがあったのだ。 それに、どうしてエレナは、あの影が霧状のものだと判断できたのだろう。エレナが取り込まれた影とは別のものだったはずなのに…… 影は形を持たず、敵かどうかすら曖昧だった。それでもエレナは感情に飲まれず、影の性質を正しく見極めていた。 あれほど冷静に迷いなく行動できたのは、獣の息遣いや風の流れ、命の重さを日々の狩りの中で見極めてきた自信と確かな経験があるからだろう。 だが、それだけではない気がする。 エレナには、誰かを守るという確かな想いがある。その強さがエレナを恐怖の波に呑まれることなく、影に向かわせたのだ。 リノアはふと、自分の手元に目を落とした。 まだ指先に震えが残っている。──私は、きっと戦えない。 その想いは言葉になる前から胸の底に沈んでいた。 相手が何者であれ、傷つけたり、命を奪う事など私にはできない。 エレナに

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status